ロシアを旅して出合った光景の中で、いちばん印象に残ったものは何ですか?
人それぞれだと思いますが、正教会のミサの世界はとてもロシア的で、印象深いものではないでしょうか。
サハリンを訪ねたときの話です。ある日曜の朝9時、ユジノサハリンスクの教会を訪ねました。場所はガガーリン公園の南側にあります。
聖堂の中に入ると、すでに多くの信者が集い、ミサが行われていました。厳かな賛美歌と司祭が振りまく香炉の乳香に包まれた堂内には、まるで中世のような神秘的な時間が流れていて、その場にたたずんでいるだけで、ゾクゾクするような心持ちになりました。なにしろ賛美歌は信者の方々が歌う生声なのですから。
礼拝の手順ですが、聖堂の入口にある受付でロウソクを買い、次に祭壇の前で自ら火を点して拝礼します。何十、何百本もの揺れる火は、堂内の聖なる雰囲気を盛り上げます。
聖堂内には、キリストの十字架像をはじめ、数多くの使徒たちや聖母マリアなどのイコンや壁画、ステンドグラスが置かれています。信者たちはそれぞれの悩みや思いを胸に秘め、自ら選んだ像、イコンの前で祈りを捧げます。
ミサには、コリア系などのロシア人以外の信者の姿も見られました。彼らはサハリンの多民族社会に溶け込んでいることがわかります。
礼拝が終わると、司祭は少しの時間、信者たちの前に進み出て、聖体拝領を行います。キリストの肉を意味する白いパン(聖餅)を信者に与える儀式です。聖体拝領は事前に聖職者の許しを得ることが必要ですが、そうでなくても、司祭に寄り添い、祈りを捧げる信者も多いようです。
モスクワやサンクトペテルブルグに行けば、もっと立派で歴史のある教会があると思いますが、サハリンのようなロシア文化圏からはるか遠く離れた島で、敬虔な信者たちがミサを欠かさない姿には、心洗われるものがあります。
ちなみに、この教会の名前は「ヴォスクレセンスキー・サボール Воскресенский Собор(復活大聖堂)」。ロシア国内には同じ名前の教会がたくさんありますが、東京神田のニコライ堂も同じ「復活大聖堂」です。